皆さん、こんにちは。
イチです。
私はツイッターをしているのですが、先日妻のケイコさんからこのような質問が。
「定性間伐ってなに?」
これは私のツイートを読んでの質問でした。
https://twitter.com/rnebO44W2E9m2RU/status/1621270157573373953
私のくだらないツイートをよく見ていただいてますね…。
というよりそりゃそうですよ、「定性間伐」なんて分かるわけない。
ということで、今回は「間伐」に関することをまとめていきたいと思います。
公開直後に、複数名の方から勉強になるお言葉をいただきました!
その部分は【補足】にまとめてありますので、併せてお読みいただきますようお願いします!
どうしても自分のいる岡山林業が中心になっておりました…
この記事はこんな方にオススメ。
間伐がそもそもどんな仕事なのか知りたい
間伐をすることでどんな意味があるのか知りたい
間伐をする時期や必要な道具等について知りたい
【この記事はこんな人が書いています】
・2021年4月、京都で高校教員→岡山で林業(植林)
・Webライターとして記事複数
・森林インストラクター資格保有
・アレルギー多め(スギ・ヒノキ・ハチ)
Contents
間伐の目的
手っ取り早くいくには、林野庁のHPを見ることです。
その説明を引用してみます。
間伐とは、森林の混み具合に応じて、樹木の一部を伐採し、残った木の成長を促す作業です。間伐を行うと、光が地表に届くようになり、下層植生の発達が促進され、森林の持つ水源涵養機能、土砂災害防止機能、生物多様性保全機能などが増進します。また、残った木の成長が促されることにより、木材としての価値が高まります。
簡単に整理すると、
間伐とは、山に生えている木の一部を伐採し、森林内に光が入るようにすること
といえます。
ぎっしりと木々が生えている山って、実はかなり暗いです(※1)
間伐することによって森の中に光が差し込み、以下のようなメリットが得られます。
残された木の成長が促され、高価値材になる
下層植生(背の低い木や草花)が良く育つようになる
水源涵養機能(森林の貯水機能)が増進する
土砂災害防止機能(土砂崩れや土砂の流出を防ぐ機能)が増進する
生物多様性保全機能(多くの動植物が住める機能)が増進する
これはぜひともやるしかないって感じですよね。
ただ、いろいろな事情でなかなか間伐が進んでいないのが実情です。
適切に間伐を行わないと、森林としての機能を備えていない森林になってしまいます。
ちなみにですが、間伐をする際には「間伐率」というものが設定されます。
私は「3割間伐」しかしたことがないです。
山に生えている木10本のうち、3本を切るというやり方です。
間伐の方法
さて、間伐にはざっくり分けて2種類あります。
間伐した木を利用するなら「利用間伐」、利用しないなら「切り捨て間伐」です。
以下で詳しく見ていきましょう。
利用間伐とは
概要
文字通り、「間伐した木を利用する」ものです。
「この商品は間伐材を利用しています」、なんてフレーズを耳にしますよね。
なんか環境に配慮した感じする…(語彙力)
あれです。
このときに行われる間伐方法は、主に「列状間伐」です。
列状間伐=利用間伐
と思ってもらってほぼ間違いありません。
列状間伐の画像を見ていただきましょう。
北海道森林管理局HPより https://www.rinya.maff.go.jp/hokkaido/sidou/forester/Problem_solution/20140820_tokati_toubu.html
こんな風に、山の斜面に沿って列状に間伐します。
3割間伐の場合、「2残1伐」で行います。
2列残して1列切る、ということですね。
なぜこんな風にするのか。
それは、切った木を機械で運びやすくするためです。
列のように切れば、ワイヤーで引っ張って木を集めることができますよね。
そうでもしないと切った木を利用することができません。
なぜなら、山で木を切ってそれを利用するというのは、よく考えたらむちゃくちゃ大変だからです。
シンプルに重いんですよね、木って。
同僚は無理やり動かそうとして腰をやりました。
例えば胸の高さの直径が20センチ、高さが18メートルだとします。
すると、木の幹だけで314kgになります。(※2)
実際は丸太にするので運ぶときはもう少し軽いですが、1.8メートルの丸太にしたとしても、単純計算で一本当たり31.4kg。
トラックが止まっているところまで山道を10往復して、やっと1本分。
これではお金になりません。
身体的にも負担が大きすぎます。
だからこそ、機械を使用して一気に木を集め、効率化しています。
列状間伐のメリット
メリットは農林水産省のPDFが詳しいので引用します。
①選木の手間が省ける
②伐採・集材が容易である
③労働安全確保上災害の原因となるかかり木が発生しにくい
④残存木の損傷が少ない
それぞれ説明します。
①選木の手間が省ける
②伐採・集材が容易である
機械的に木を切るということは、「これは良い木だ、山に残そう」「これはダメな木だ、切ろう」と、木を選ぶ必要がありません。
そして直線状に木を切るため、木を集めやすいといえます。
作業スピードが向上しますね
③労働安全確保上災害の原因となるかかり木が発生しにくい
④残存木の損傷が少ない
「かかり木」というものがあります。
これです。
林業木材製造業労働災害防止協会HPより https://www.rinsaibou.or.jp/safety/method/method3.html
なんだかおまぬけな感じですが、これがめちゃくちゃ危ないです。(※3)
急に倒れてきたり、何かにぶつかって跳ねたり…。
重たい木が直撃するわけですから、打撲や骨折で済めばラッキーというレベルのダメージを食らいます。
列状に間伐することにより、きちんと狙って倒せば「かかり木」の発生確率は激減します。
木がぶつからないわけですから、残存木の損傷も当然減少します。
列状間伐のデメリット
こちらは岐阜県の森林研究所のHPが詳しいです。
①間伐後に不良木が残る
②不良木まで搬出してしまう
③樹冠の偏奇を生じる
④間伐効果が偏る
こちらも以下で詳述します。
①間伐後に不良木が残る
②不良木まで搬出してしまう
利用間伐は機械的に木を切り出すため、木の品質を重要視しません。
つまり、木の価値を無視するということです。
「間伐材=ダメな木、悪い木」ではない、ということですね。
「間伐材を使用しています」と銘打っているものの、めちゃくちゃ良い木が使われている場合も少なくありません。
そのまま山においておけばさらに価値がついたかもしれないような木も問答無用でぶった切ります。
逆に、「こんなの売りものにできませんけど…」みたいな木も切り出します。
その場合は製紙用のパルプにしたり、発電用のチップにしたりします。
そして、山には良い木と悪い木が入り混じったまま…。
これがデメリットの1つです。
③樹冠の偏奇を生じる
木は光を求めて伸びていきます。
枝を伸ばすだけでなく、幹(特に先端部)もそちらへじわじわと伸びていきます。
それが樹冠の偏奇につながります。
まっすぐな木の方が(基本的には)価値がありますから、残された木の価値が下がる可能性をもっています。
④間伐効果が偏る
機械的に木を切り出すわけですから、大きな木を切り出した場合は森林内に良く光が降り注ぎますが、小さな木を切り出した場合はそうはいきません。
山全体で「ここはたくさん光が当たるようになった、こちらはそうでもない」という状況が発生する可能性があります。
これもデメリットとして挙げられるでしょう。
列状間伐まとめ
以上が利用間伐に関することがらです。
メリットとデメリットの双方がありますが、近年機械化が進んでいること、選木技術が不必要であることなどから、個人的にはけっこう増えてきている印象です。
ただでさえ間伐が間に合っていない状態ですから、国としても間伐をガンガン進めてほしいところ。
機械化が進んだ現状、林業事業体としても行いやすい作業かもしれません。
ちなみにある程度の収入が期待できることから、「収入間伐」なんて呼ばれ方もしています。
そのほか細かなところもありますが、とりあえずこんなところで。
切り捨て間伐とは
概要
名前の通り、間伐した木を山の中にほったらかします。
農林水産省HPより https://www.maff.go.jp/j/pr/aff/1510/spe1_02.html
切られた木が、無造作に山の中で転がっていますね。
これが切り捨て間伐です。
見ての通りの感じなので、ワイヤーを使おうが木を引っ張り出せません。
時間をかければ引っ張り出すこともできますが、それでは時間の割に儲けが少なくなってしまいます。
だからそのまま切り捨てているのですね。
切り捨て間伐にも種類があるのですが、ここでは「定性間伐」を取り上げていこうと思います。
定性間伐のメリット
分かりやすく考えるなら、列状間伐の逆です。
すなわち、
①間伐後には山に優良な木が残る
②安い不良木を搬出する手間がかからない
③樹冠が狂いにくい
④まんべんなく間伐効果が表れる
以下で順番に詳述します。
①間伐後には山に優良な木が残る
②安い不良木を搬出する手間がかからない
成長が劣っている木を中心に切るので、山には立派な木だけが残ります。
ますます枝と根を力強く張るようになるため、水源涵養能力や土壌の保持力の高い山になりやすいといえるでしょう。
また、将来的な皆伐(全伐)の際に、収入が大きくなります。
③樹冠が狂いにくい
④まんべんなく間伐効果が表れる
山全体から木を選んで切り捨てるということは、全体からまばらに間引いていく感じになります。
列状間伐よりも極端な間伐にはならないので、残された木への影響は少ないです。
③や④のメリットだけではなく、木が一気になくなったことによる土壌の流出や乾燥なども起こりにくいといえます。
これらのメリットのため、切り捨て間伐は「保育間伐」とも呼ばれます。
定性間伐のデメリット
一方で、デメリットも列状間伐の逆になります。
①選木の手間がかかる
②集材しにくい
③かかり木が発生しやすい
④残存木が損傷しやすい
以下で詳述します。
①選木の手間がかかる
②集材しにくい
木を選ぶ手間がかかるのはもちろんですが、それだけでなく、熟練者と初心者ではかなり選ぶ木に違いが出ます。
切り捨て間伐は不良木の伐採が主とはいうものの、実は必要であればそこそこ良い木も切る必要があるからです。
「悪い木を切る」という視点と、「周りの良い木を育てるためにやむなく切る」という視点があるのです。
その選択が悪ければ、せっかくの間伐の効果が薄いものになってしまう可能性もあります。
②は言わずもがなですね。
③「かかり木」が発生しやすい
④残存木が損傷しやすい
特に③は、枝が強いヒノキの場合で顕著です。
木の生え方にもよりますが、ほぼ「かかり木」になります。
「枝がからんで倒れない」という言い方が正しいかもしれません。
その分ヒノキは、残存木に直接ぶつかってしまうということが少ないです。
スギの場合は枝があまり強くないため、「かかり木」にならずそのまま倒れやすいようです。
その分衝突すると残存木のダメージが多そうですが…。
私自身ヒノキしか間伐したことがないので詳細は分かりません。すみません。
岡山県はヒノキが名産なので、ヒノキばかりなんですよね…。
定性間伐まとめ
以上が切り捨て間伐に関することがらです。
列状間伐同様、細かいことを言えば他にもいろいろありますが、ひとまず以上で良いかなと。
捨てるのはもったいないと思いますが、山全体や残された木のことを考えるとこちらも十分なメリットがあります。
収入につながらないところがつらいところではありますが…。
間伐の時期について
植えてからの年数
木は植えてから立派な商品になるまで40~50年かかります。
それまでにいろいろな作業があるわけですが、間伐はだいたい植えてから15~20年くらいしてから行います。(※4)
最初の間伐を終えてから、数年おきに山の状況を見ながら実施します。
林野庁のHPではだいたい5~6年おきという記述があります。
間伐を行う季節
基本は秋~冬にかけて行います。
冬は木が休んでいる時期で、水を含んでいません。
そのため比較的軽量で処理がしやすいのです。
樹皮も剝がれにくく、木が痛みにくいというメリットもあります。
しかし近年は季節を問わずやっているところもあります。
私が住んでいるエリアだけかもしれませんが…
間伐に必要な道具
・チェーンソー
・ツールセット
・燃料やチェーンオイル
・ノコギリやナタ、手斧
・ロープ
・クサビ
主には以上のような道具です。
かかり木対策でフェリングレバーという、木を回転させる道具を携帯している人も。
私は切り捨て間伐が主なので、利用間伐(列状間伐)をしている方は違ってくるかもしれません。
ノコギリやナタは小さい枝を処理するときに使うのですが、いざというとき役に立ちます。
チェーンソーが木に挟まれたときなんかも便利です。
熟練者になればなるほど不必要な気がしています。オイ。
お守りみたいなもんですかね
その他身を守る装備として、
・防振手袋
・ヘルメット
・耳栓(イヤーマフ)
・防護ズボン
・チェーンソーブーツ
・ゴーグル
なんかが必須です。
チェーンソー作業は危ないですからね…。
まとめ
以上、間伐に関するもろもろを、ざっくりではありますがまとめてみました。
非常に奥深いのがこの間伐ですし、これから研究されて他にもメリットやデメリットが出てくるだろうと思います。
木の成長には時間がかかるため、林業自体がまだ完成されたものじゃないんですよね。
今正解とされていることが、将来的には間違っていたとされる可能性もあるため、林業に従事している我々も、学び続ける必要があるなと痛感しております。
ご意見などある方は遠慮なくお教えいただきたいです。
私自身経験が浅いですから、謹んで拝聴したいと思っておりますので…。
よろしくお願いします!
【補足】
きちんとここに目を通していただいてありがとうございます
記事を公開してツイッターでつぶやいたところ、いろいろなご意見をいただきました。
補足としていますが、現実にはこの「間伐」記事のいたらない部分を補完する部分です。
貴重な時間を使って記事を読み、なおかつリプをいただけるなんてめちゃくちゃありがたいです
きちんとこの項目でいただいたリプをまとめておきたいと思います。
定性間伐=切り捨て間伐ではない⁉
私の事業体では「定性間伐(と従業員が呼んでいるそれ)=切り捨て間伐」なのですが、全国的には必ずしもそうではないようです。
ご意見をいただいたのは次の方々です。
とてお@新米林業屋さん
https://twitter.com/toteo1202/status/1622178555298971650
アラカシさん
https://twitter.com/db36_db/status/1622197658948608000
Shunsuke Hori / 堀俊介さん
https://twitter.com/hori_shunsuke/status/1622205881747402752
劣勢木を中心に間伐する定性間伐だろうが、利用間伐とするところもあるようですね。
間伐で交付される補助金について
こちらも「とてお@新米林業屋」さんと、「Shunsuke Hori / 堀俊介さん」から。
とてお@新米林業屋さんは直接記事にコメントいただいております。
私の住んでいる岡山県のことを中心とした記述になりますが、岡山県では3割以上の間伐で補助金交付要件を満たします。
3割(本数計算)という間伐率が設定される理由はここにあるんですね。
もう一つ、間伐の種類によって補助金の標準単価が変わります。
以下、その金額(請負施工の場合)です。
なお、表の作成にあたっては「森林組合の人」さんのリプを参考にしております。
https://twitter.com/ShinkumiNoHito/status/1622448631629619200
単位は1ha当たりの金額です。
・保育間伐 選木あり 178,000円
・保育間伐 選木なし 119,000円
・定性間伐 選木あり(搬出・材積80~90m3・車両系) 677,000円
・定性間伐 選木なし(搬出・材積80~90m3・車両系) 643,000円
・列状間伐 選木あり(搬出・材積80~90m3・車両系) 576,000円
・列状間伐 選木なし(搬出・材積80~90m3・車両系) 561,000円
「R4年度標準単価(1-四半期)」 https://www.pref.okayama.jp/uploaded/life/488311_7211519_misc.pdf
あくまで標準単価です。実際は7割交付が目安です。
選木がつくと、どのパターンでも金額が上がりますね。
保育間伐、定性間伐、定量間伐
これらの用語をきちんと整理しておく必要があります。
それを感じたのはアラカシさんのリプです。https://twitter.com/db36_db/status/1622148313826099200
こちらの項目は「財団法人 東京都農林水産振興財団 東京都農林総合研究センター」を参考にします。
保育間伐…保育のみを目的とする間伐で、切り捨て間伐ともいう。
定性間伐…木々の形質に重点を置いてあらかじめ伐る木を決めて行う間伐である。基本的には、不良木から順に伐り、優良木を残す。選定の基準として、寺崎式樹型級区分(表1)が利用された。
定量間伐…立木の密度を重点に置いて、残す量をあらかじめ決めて行う方法である。普通は定性間伐のように選木基準を定め、不良木から伐採する。
寺崎式樹形級区分の画像は、上記のPDFをご覧ください。
この定義からいくと、私が行っているのは「保育間伐」になります。
「定性間伐」も「定量間伐」も、機械を利用して搬出する可能性がありますからね。
私は「定性間伐」=「搬出しない」と思い込んでいました。
記事も修正したいところですが、これは自戒の意味を込めておいておきます。
そしてややこしいことに、補助金が3割以上の間伐(7割残す間伐)でつくわけですからそこはゆるがせにできない。
つまり、どの間伐も定量間伐の要素を含みますね…。
本来的な保育間伐や定性間伐としては「優良木を残せばそれで終了」なのですが、どうやら補助金の関係でそうはいっていないみたいです。
しかし事務所の方々は「定性間伐」といつも業務内容を説明されているので、このあたりはごっちゃになっているのかもしれません。
情けない話で私の事業体だけかもしれませんが。
【補足まとめ】
いただいたリプをまとめましたが、非常に勉強になりました。
地域や山ごとに全然違うんだなぁと改めて実感するとともに、視野を広く持つ必要性を感じます。
また、「あの地域のやりかたは変だ」みたいな価値観の押し付けも良くないなと。
それぞれの地域ごとにベストなやり方があるので、「自分のところのやり方が最高」というのはいただけないような気がします。
自分のところの林業に誇りを持つことは素晴らしいと思うんですけど、同じくらい他の地域の林業にもリスペクトを持って仕事をしたいなと思う次第です。
みなさん本当にありがとうございました!
参考にしたHPなど
※1 林内照度について https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsrt/44/1/44_245/_pdf
ぎっしりと木が生えた山林の林内照度は約3.8%である。
ひらけた場所の25分の1しかない。
強度間伐(本数にして50%、材積にして35%)の間伐を実施した場合、林内照度は15.4%となった。
※2 農林水産研究情報総合センターPDF https://www.ffpri.affrc.go.jp/research/dept/22climate/kyuushuuryou/documents/page1-2-per-a-tree.pdf
ここの数値をそのまま使用しています。
※3 農林水産省PDF https://www.rinya.maff.go.jp/kinki/seibi/attach/pdf/20211220-12.pdf
※4 林野庁HP https://www.rinya.maff.go.jp/kyusyu/invitation/q_a/rkuma10b.html